「相続は、土地の問題であると同時に、人と人、地域と行政の問題でもあります。」
一本の電話から始まったご相談
令和5年秋、事務所に一本の電話がありました。
「妻の実家の土地を、国に帰属させたいのですが…」
穏やかな声の主は、他県にお住まいのご主人。相続した土地の処分についてのご相談でした。
後日、ご夫婦でご来所くださり、そこから法務局との長い協議が始まりました。
この案件は、令和5年当時に始まったばかりの国庫帰属制度に関するものでした。
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まずは地域での解決策を探る
最初に検討したのは、「地域の中で解決できないか」という視点でした。
近隣の方に贈与の形で土地を引き取っていただけないかお声がけし、
以前関わった不動産業者にも査定を依頼しました。
しかし、旗竿地で建築許可も難しく、売却も困難。
最終的に、国庫帰属制度を利用する方向でご夫婦と進めることにしました。
申請には手数料だけでなく、測量図や境界標の確認写真など、
多くの追加費用が必要になります。
制度の新しさゆえ、依頼者への負担が大きい現実も見えてきました。
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法務局との協議と現地視察
年が明けたころ、法務局から現地視察の連絡がありました。
土地勘のない担当者のため、視察当日の駐車スペースを確保。
現地では、隣家のブロック塀や倒壊の恐れのある塀、公図に現れない水路など、
複数の課題が明らかになりました。
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地域との連携で道を拓く
課題解決の糸口を探る中、私は再び地域の協力を求めました。
水路を挟んだ金融機関に贈与の打診を行い、
若い支店長が「地域のために」と真摯に対応してくださいました。
その姿勢は、後任にも受け継がれています。
また、隣家の20代のお子様が
「自分が贈与を受けることで国に引き取ってもらえるなら」と快諾。
地域の理解と協力に支えられながら、少しずつ前進していきました。
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チームの力で挑む
この案件には、建設業者、不動産業者、司法書士、土地家屋調査士など、
多くの専門家が関わりました。
さらに、視察時に駐車を快諾してくださった店舗オーナーなど、
地域の方々のご協力も欠かせませんでした。
私たちの願いはただひとつ。
「依頼者の想いが行政に届くこと」。
法務局の担当者もまた、誠実に対応してくださり、
「どうすれば答えられるか」を共に考えてくださいました。
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結果はまだ見えないけれど
現時点では、まだ最終結果は出ていません。
ただ、私が望むのは、国庫帰属が認められ、
依頼者が負担した費用が少しでも控除されるような制度運用になることです。
長い時間をかけて積み重ねた努力が、
ご夫婦の想いに届くことを願っています。
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行政書士としての想い
私は、私にご依頼くださったすべてのお客様の「未来の幸せ」を祈りながら、
日々の業務に向き合っています。
書類を整えるだけでなく、人と人、地域と行政をつなぐこと。
それこそが行政書士の使命であり、
私がこの仕事を続けていく理由です。
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